自動車の輸出額が大幅増加した2023年

財務省が発表した「令和5年分貿易統計」によると、昨年の輸出額は100兆円を突破し、比較可能な1979年以降で最大の金額となったそうです。収益に最も寄与したトップ3は自動車、建設用・鉱山用機械、船舶の分野で、中でも自動車は前年と比べて32.7%売り上げが伸びる大躍進を遂げました。

日本車は燃費や乗り心地の良さなどから海外で高い人気を集めています。アメリカの消費者組織「Consumers Union」が発行する月刊誌「Consumer Reports」は、今年2月27日にWebで公開した「Best Cars of the Year: 10 Top Picks of 2024(今年のベストカー:2024年のトップ10選)」で日本車を7車種選出。「スバルは2車種、トヨタは4車種と今年も健闘しました。この二つのブランドは、シンプルな操作性、快適なキャビン、インフォテイメント、そして最も重要な先進安全機能を備えた、スマートなモデルを一貫して提供しています」と称賛しました。

新潟県燕市に本社を構える「東商技研工業株式会社」(以下、東商技研)は、そんな日本車に使われているパーツも手掛ける企業です。「鏡面仕上げ」と呼ばれる技術を使い、世界で評価される日本車の製造を支えています。今回はこの優れた技術を紹介していきます。

日本車
自動車の部品に欠かすことのできない鏡面仕上げ

私たちの生活は鏡面仕上げなしでは成り立たない

「鏡面仕上げ」とは、加工物の表面を磨き上げて鏡のように滑らかにする処理のことを指します。プラスチックなどにも使われていますが、アルミニウムや真鍮のような金属で特に活躍している技術です。金属は表面に水分が付着すると空気中の酸素を吸収し、いわゆる「錆び」が発生します。鏡面仕上げの効果の一つが、この錆びの防止です。金属の表面が滑らかであれば付着した水分が流れていくので、錆びづらさに繋がります。また、鏡面仕上げを行った加工物は水だけではなく汚れも付着しづらいため、清掃も容易になります。

鏡面仕上げが行われている加工物の代表的な例としては、オフィスの受付や飲食店などに置いてある呼び鈴があります。呼び鈴は顔が映るほど滑らかに磨き上げられており、不特定多数の人が使用するにも関わらず汚れが目立つことはほとんどありません。あのような加工を機械の部品や医療器具などに施すことで、清潔で耐久性の高いものが生まれているのです。また、鏡面仕上げを行うことで、鉄材を切断した際などに発生する「バリ」と呼ばれる突起も取り除くことができます。これによって機械の故障や精度の悪化などが防止され、私たちの生活を支える日用品や食品の安定生産に繋がっています。普段意識することはあまりないかもしれませんが、私たちの生活は鏡面仕上げなしでは成り立たないと言ってもいいでしょう。

呼び鈴
鏡面仕上げされた本体部分が周囲の景色や光を鏡のように映し出すことで、どのようなシーンにも溶け込みます。

鏡面仕上げの手法「バレル研磨」に取り組む東商技研工業株式会社

そんな鏡面仕上げを専門に取り組む会社が、新潟県燕市に本社を構える「東商技研工業株式会社」です(以下、東商技研)。鏡面仕上げにはいくつかの方法がありますが、東商技研が行っているのは「バレル研磨」と呼ばれるもの。これは加工対象と研磨石、研磨剤と水を一定の割合で混合して専用の容器に入れ、回転や振動などで動かすことによって研磨を行う方法です。バレル研磨のメリットとしては、「加工コストが安価」「様々な研磨・加工用途に対応」「加工後の精度のばらつきが小さい」「一度に大量の加工が可能」「複雑形状でも加工が可能」などが挙げられます。また、バレル研磨はさらにそこから細分化されて様々な方法があり、東商技研では「回転バレル研磨」や「遠心バレル研磨」など6種類の方法を導入。加工対象物の特性に合わせて最適な方法を提案しています。

少量多品種でのバレル研磨を得意としている東商技研。大きさとしては数ミリ程度の小物製品から手のひらサイズまでの加工に秀でており、公差わずか100分の3ミリという精度でも高い評価を集めています。現在手掛けているのは、OA機器や医療部品、家庭雑貨など。先述したように海外でも人気の高い自動車部品の研磨も行っており、その技術で日本のブランド力を陰で支えています。

回転バレル研磨機
工場内には無数の回転バレル研磨機が稼働している

新たな試み「鏡面加工ドットコム」

「我々はチャレンジャーである」を経営方針に掲げる東商技研は、今年に入ってまた新たなチャレンジを行いました。鏡面仕上げに関する専門サイト「鏡面加工ドットコム」の開設です。これはその技術の工程や専門用語、バレル研磨の魅力とそのプロセスなどを解説するもの。さらに「材質」「ワークサイズ」「成型方法」「数量」の4項目を入力すると施工可能かを瞬時に判断するサービス「カスタム鏡面アドバイザー」を用意。気軽に相談できる仕組みを作り、新たな可能性を開拓しています。

カスタム鏡面アドバイザーの使い方は簡単です。仮に「SUS製で縦100ミリ×横100ミリ×奥行き100ミリのプレス品を1個」製造予定だとします。それをカスタム鏡面アドバイザーの質問項目に入力し、「診断する」を押すと、次のような画面が表示されます。

カスタム鏡面アドバイザー 診断画面

「加工できそうな条件が揃っている」と診断結果が出ました。ここから本格的に相談したい場合は、「詳しく相談する」を押します。

カスタム鏡面アドバイザー 診断結果

先ほどの項目に修正がある場合は修正を行い、なければ会社や担当者の名前、電話番号や問い合わせ内容などを入力します。資料や画像がある場合は添付することも可能です。これを入力し終えたら「入力内容確認画面へ」を押して確認した後、「送信実行」を押せば相談依頼が完了します。

54年目にして新しい歴史の幕開けを期待させるチャレンジャー

見た目の美しさと機能を長く保ち続けるための技術「鏡面仕上げ」。この技術によって生み出された製品は、間接的なものも含めて様々な場所で活躍し、私たちの生活を支えています。そして、その「清潔で長持ちする」という特長は中古市場を成長させ、海外でも人気を呼ぶようになりました。

1970年の創業以来、54年間にわたってバレル研磨に取り組んできた東商技研。その歴史は地場の洋食器から始まり、自動車関連部品、家電機器部品、携帯電話部品等、時代によって加工対象の幅を広げながらノウハウを蓄積し、高い技術を培ってきました。そして老舗ながら常に挑戦する姿勢を持ち続け、専門ウェブサイトを立ち上げて新たな可能性を開拓しています。

なお、カスタム鏡面アドバイザーで「難しそうなご依頼ですね」と表示された場合でも、必ずしも不可能ではありません。東商技研の高い技術力と挑戦的な姿勢は、これまでに多彩な実績を作ってきました。難しそうな依頼でも、それがまた新たな一ページになるかもしれません。そしてそれは日本を超えて海外でも評価される可能性も持っています。鏡面加工ドットコムのオープンは、そんな新しい歴史の幕開けを期待させる試みです。